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電話の向こうから聞こえてきた声は、とても小さくかすれています。
「もし・もし・・○×※-+=◎・・・ フェリーが大洗に着いたら、○×※-+=◎・・・ 迷ったら・・・・」
受話器を耳に押し当てても、何を言っているのかよく聞き取れません。でも、相手が誰なのか、何を言いたいのかはすぐにわかりました。
「大丈夫ですよ、うちの人が道順を調べてありますから。ちゃんとお婆ちゃんを連れていきます。だから心配しないで待ってて下さいね」
声の相手は、婆ちゃんの義弟、私達からすると、おじさんです。
どうしても心配で、自分で電話をかけずにはいられなかったんだね。
それは数日前の事。
婆ちゃんは、死んだ爺ちゃんの弟(義弟)が、婆ちゃんに会いたくて待っているという話しを奥さんから聞きました。
今ではご飯もあまり食べられず、外出するのもままならなくなってしまったそうです。
それを聞いた婆ちゃんは、いてもたってもいられなくなり、どうしてもおじさんの所に行きたいと言い出しました。
でも、婆ちゃんだってここ数年でとても体が弱ってきて、家の事をするだけでも精一杯です。
当然、一人で行く事はできません。
「やっぱしおら行けねえわ、歩けねえも。なあして、こんなになってしまったんだか・・。お前行ってきてけれや。だけどもなあ・・・」
婆ちゃんは行きたいけれどとても不安で、『行く』と言ったり『行かない』と言ったり、ちょっと私達を困らせました。
でも、どちらにしても津軽海峡を渡れるのは、これが最後になるかもしれず、旦那さんと義姉が付き添って茨城のおじさんの所に行く事にしました。
お土産は、故郷 北海道の魚やウニや、それからお餅も少し食べたいんだと。
「そろそろ3時になるな、じゃあ行ってくるわ」旦那さんが、婆ちゃんを呼びに行きました。
婆ちゃんは「したら母さん、留守は頼むな」と言ってから、
「あ、そうそう、干し柿も食うって言うから持って行かねば、小いっこい方の袋だぞ、でけい(大きい)方のはいたましい(もったいない)からな」と言いました。
婆ちゃんが大好きな干し柿も、ほんの少し、持っていってあげるようです。
夕方になってから、旦那さんから電話が入りました。
『フェリーさんふらわあさっぽろ』の乗務員さんがとても親切で、荷物を持ってくれたり、車いすの手配をしてくれたり、エレベーターの近くに車を誘導して下さったりしたそうです。
きっと今頃はフェリーの中で寝ているね。酔い止めの薬が効いているといいけどな。
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