婆ちゃんの入っている病院の駐車場で、小さな夏祭りが行われました。
何日も前から、婆ちゃんは
「今度、夏祭りがあるんだってな。綿あめがタダなんだってよ」と言っていました。
その次に行ったときも、
「夏祭りがあるんだってよ、綿あめがタダなんだってよ」と言います。
またまた次に行った時も、
「夏祭りがあるんだとよ。あんただけに言うけどな(ヒソヒソ声で)綿あめがタダだとよ」
『よ』がでっかい!
夏祭りは平日の2時間だけなので、ちょっとだけ事務所を閉めて出かけてみると、ベッドの上にシワシワのタオルが一枚 放ってあるだけで婆ちゃんの姿がない。
「あ、お婆ちゃんですね!今、看護士とお祭りに行ってますよ」
婆ちゃんは、クリスマスも七夕も知らないけれど、手稲祭りの時だけは、がぜんハッスルするのであった。
果たして会場に行ってみると、紫色の水玉模様のリボンが付いている麦わら帽子をかぶった婆ちゃんの姿が車イスでこっちを向いてる。
クマデのような両方の手でかかえているのは、風船をねじって作ったお猿ふうせん、赤くポップコーンと書かれた紙袋、水色のゾウさんの絵柄が入った綿あめ、くじ引きを引いて当たったという手ぬぐいです。
その細めた目は、シワと区別がつかないほど。
ニンマリした口は入れ歯が落ちるんでないべかと心配になるくらいの歯の見せようです。
はっはっはっは・・・・
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看護士さんから車椅子をバトンタッチして、私たちは日陰で休む事にしました。
婆ちゃんは、綿あめの割り箸つままずに、袋の上から綿あめを抑えると、大きな口を開けて入れ歯で食いちぎりました。
それから
「いやあ、まいったよ。あんただから言うけどよ、(ヒソヒソポーズのでっかい声で)ここの看護婦はよ、来てほしい時に来もしないで、お祭りには誘いに来るのよ。それでな、祭りなんかオラは行かねえ!えって言ってやったのによ、祭りに無理やり連れてこられたもな」
と言いました。
でもさあ、お祭り楽しいっしょ。
婆ちゃんは、口の回りに付いた溶けた綿あめを、薬指でぬぐいながら、
「ダメよ、同じ部屋のオラだけ連れてこられたんだ」
と、またまた綿あめを食いちぎりました。
最後に残った大きな固まりは、指で寄せるように口に入れて、濡れおしぼりで手を拭いて言いました。
「あーあ、オラ祭りは好きだもな」
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