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「母さん、あそこに下がっているのはオラのバケツでないべか」
婆ちゃんに言われて見てみると、裏のお宅の物干し竿に、見覚えのあるバケツが下がっています。
少し小さめで、持ち手の部分が金でできているのが特徴だけど、名前が書いてある訳でもないので確信がありません。
でも婆ちゃんは、「去年の風の強かった日に、飛ばされたんでないかと思うんだけどなあ」と言います。
裏のお宅には以前、お婆ちゃんとその息子さんが住んでいたのですが、数年前にお婆ちゃんが亡くなってからは、定年を迎えたらしい息子さんが1人で住んでいます。
道で合えば挨拶はするけれど、あまり話した事のないおじさん宅に突然訪問して『これはもしや我が家のバケツでは』とは、私もちょっと聞きにくい。
バケツなら他にもあるっしょ。
婆ちゃんは「仕方ねえな・・・・」と言いつつも、やっぱり気になって
竿に下がっているバケツを見るたび
「あれはオラのだと思うけどなあ・・・」
と、気になる様子です。
ところがそのあと急展開。
今年から回覧板の道順が変わって、おじさん宅から我が家に回ってくる事になりました。
我が家の郵便受けに回覧版を入れているおじさんを偶然に見つけたので声をかけました。
「あ、あの、実は、お宅の物干に下がっているバケツなんですが・・・」
おじさんは、いきなりへんな事を言う私に「何言ってんだ?」と言う表情です。
「もし違っていたら本当に申し分けございませんが、コレコレシカジカ・・もしやと思いましてそのあの・・・」
おじさんは、私の話しをしばらくじっと聞いてから、
「あ〜あ〜あれね、もう去年くらいになるよ、ウチのじゃないんだけど落ちてたからぶら下げておいたのさ。
それなら婆ちゃんのに間違いないよ」と、なんだか優しいおじさんです。
さっそく、自宅の物干竿からバケツをはずして、
「雨水が入ってんな・・・」
と中を覗いてから、バケツの中の水をバシャッと捨てました。
「洗わなきゃなんないな」
「あ、いえいえ、このままでけっこうです」
「そうかい」
「どうもありがとうございました」
「いえいえ」
おじさん、いい人だったしょや!
家に戻ってから、
「婆ちゃん、こ〜れ!!」と見せると、婆ちゃんは両手とパチン!と叩いてから曲がった腰をもっと曲げて、
”こりゃ驚いた〜”と、にっこりです。
それから、怪しい顔つきをして、
「どうだった?あの旦那」言いました。
「な〜んもさ。しゃべってみればいい人だったよ」と自信まんまん言ったけど、ほんとは内心ドキドキだったのは、婆ちゃんいはナイショだよ。
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