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「お母さんここだよ、面白いおじさんがいる八百屋さんて」
長女の家の近所にある八百屋さんは、今では少なくなった個人商店の小さな店でした。
品台の上はだいたいに区切られているだけで、そこに、ほうれん草や大根なんかがキチンと並べられています。
キュウリはよく売れるのか、上の方はコロコロと斜めになってるね。
一山ごとのザルがないから、ブロッコリーと赤と黄色のパプリカと、小さなパックのプチトマトは、境目が混じりあって、みんなで井戸端会議をしているみたいです。
そのすき間に、手書きのポップがツンと立ってて、マジックで値段が書いてありました。プチトマト45円。
45円?!
「ね、安いでしょ」
「うわ、安いね~」
『おや、そこの姉妹のおふたり、いらっしゃい』
振り向くと、ほっぺたが赤くて、サツマイモみたいな小さなおじさんが立っています。
あら、おじさん、姉妹だなんて、ほほほ・・・
いきなりハートをグワシとわしづかみにされちゃったしょや。
それじゃあこのプチトマトもらおうかしら。
『これもどうだい?ラフランス2個入り、ちょっとキズもんだから150円!』
「ちょうだい!」
『パプリカは2個で・・・60円でいいや』
おじさん、そんな商売してて大丈夫かい。こっちの方が心配になっちゃうわ。
そのうち、赤ちゃんをだっこして、男の子の手をひいたお母さんが入ってきました。
『いらっしゃい!』
「おじさん、安いキュウリある?」
『あるよ~、ほれ』
おじさんは、後ろの箱から端っこを切り落としたりしてある形も大きさも色々のキュウリを両手で持ち上げ、
『200円だよ』と言いました。
そうか、もしかして安いキュウリとは、ちょっと日にちがたったものなのか。
「おじさんありがとうね、じゃあブロッコリーもちょうだい」
『はいよ、おい兄ちゃんおりこうだから、おじちゃんコレやっからな』
おじさんはそう言って、男の子に小さなアイスをほれと手渡すと、さっさと定位置に戻って、キュウリとブロッコリーをビニール袋に入れています。
男の子はきょとんとしてから、お母さんを見上げました。
”よかったね・・・”
おじさんのお店には、仕入れたばかりと思われるピンとしたほうれん草もあれば、ちょっとシナシナのキュウリもありました。
でも、ムダにしないで安く売ってくれると、とっても家計が助かるね。
私も子供達が食べ盛りの頃は、質より量が必要でした。
キュウリはちょうどお漬け物にしたかったところです。ちょっとしなびているくらいがちょうどいい。
「おじさん、私にも安いキュウリちょうだい?」
おじさんは、後ろの箱の底から、残っていた安いキュウリを両手で持ち上げ、
「はい、200円」と言いました。
1.2.3.4・・・・7本半!やったしょや!
キュウリは一晩で糠漬けができました。