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さあ、新千歳空港に向けて出発です。
荷物は全部カバンに入れたはずだけど、婆ちゃんは出がけに、小さなビニール袋を握っています。
「何持ってんの?」
「大事なもんだ」
大事?・・あら中身もビニール袋でしょや。
「なんかあったら困るべや」
そうか、なんかあったらこまるもね。何事もビニール袋がれば対処できるか。
「でもさあ、私もカバンに袋持ってきたから大丈夫だよ」
「そうか・・・」
ビニール袋の何枚も入ったビニール袋を婆ちゃんから受けとって、さあ、手稲駅までタクシーで5分です。
地元、JR手稲駅(札幌)から新千歳空港行きの汽車(列車)に乗れば、もう外に出ることなく飛行機の中まで入る事ができます。
それに、改札から空港ロビーまで行けば車イスを貸してもらえるので、婆ちゃんはあまり歩かずに済むからありがたいね。
係のお姉さんが付き添ってくれるし、検品の時も別のドアから車イスを押してくれます。
メガネにマスク、着膨れをした正体不明のような婆ちゃんは、そのたびに何度も体を曲げて「宜しくお願いします」と、頭をさげました。
”優先搭乗のお客様・・・・”
さっそく、私達が先に乗り込みます。
搭乗券は職員のお姉さんにお渡ししたので、このあいだのように、自分でQRコードをタッチしてピロリロ〜ンと搭乗口を通過するプチおもしろ感はなかったけれど、そのかわり、今度はちょっと偉くなったみたいに、お姉さんのお付きでの優先搭乗です。
飛行機は滑走路に向けて動き出しました。
”皆様、本日はスカイマークエアラインをご利用くださいまして有り難うございます。・・・・離陸後は機体が揺れる事が予想されます・・・・”
それからゴ〜〜〜っという音と共に飛行機が滑り出しました。
窓際に座った婆ちゃんは、ひじ宛てをしっかり握っています。あれ、口に入れてた飴も握りしめてる、手がべたつしょや。
「婆ちゃん飴っこいらないの?」
婆ちゃんは首を横に振って、「いや、揺れたらノドに詰まって死んだら困るもな」と言って外を眺めています。
飛行機はまもなく、スピードをあげ、Gをかけながら上向きにす〜っと浮き上がりました。
婆ちゃんの飴っこも、婆ちゃんにGをかけられ、空に舞い上がりました。つづく