北海道・札幌発・だべさ通信5

婆ちゃんを看取りました

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そのとき婆ちゃんは目を少し開けて酸素マスクをつけていました。
口を開け、大きく肩で息をしています。
その うつろな表情から、残された時間は、あとわずかであることがわかりました。
おばちゃん(婆ちゃんの妹)が「ほら、姉さん、息子とポプラちゃんが来たよ!」と耳元で言っても、私が「婆ちゃん、来たよ」と肩をポンポンと叩いて声をかけても状況は変わりません。

 

 

婆ちゃんは、3日前に先生からお許しがでてプリンを食べたばかりでした。
お粥のような食事ばかりだったので、いつもと違う甘い味に、一口食べるなり
「あーうまい」と言って、入れ歯のないアゴをモグモグ動かし、私が次の1さじをすくう前にはもう口を開けてる。まるでヒナみたいでした。
それがもう、今では呼んでも声は届かない様子です。

 

 

しばらくして、看護士さんが血圧を計りにやってきました。
「アキさーん、わりますかあー、血圧を計りますね」
そういうと、婆ちゃんが ” うんうん ” とうなずきました。
わ、婆ちゃん聞こえてる!
「婆ちゃん!来たよ、わかる?」
” うんうん ”
おお!
「おばちゃん、婆ちゃん聞こえてるみたいだよ」

「なに、聞こえんのかい、姉さん!姉さん!」

・・・・・

意識はとぎれとぎれなのかもしれない。

 

 

 

一旦、おばちゃんと旦那さんは、とりあえず病室の外で休む事にしました。
私は婆ちゃんの枕元にイスを置き、ベッドの柵に腕を置いて、寝た子をあやすみたいに婆ちゃんの上下する肩をポンポン叩きながら見ていました。
息を吸うときは肩が大きく上がる、ハーと息をはくと、酸素マスクがボヤっとくもる。そのくり返し。

ハー ハー  ハー ハー

・  ・  ・

ん? 口を開けたままの婆ちゃんの肩の動きがピタッと止まった。

 

 

 

あれれ?婆ちゃん、ばあちゃん?・・・・
立ち上がって婆ちゃんの肩をポンポン叩く。ばあちゃん?

 

 

 

ハー ハー  ハー ハー
あ、息した息した。 いかった、息が止まったかと思った。
そっと座り直して、しばらくのあいだ婆ちゃんを覗き込む。
ハー ハー 大丈夫だ。

 

 

それからまた、いくらかの時間が過ぎたときです。
ハー ハー  ハー ハー

ピタッ・・・・・・・

ん?婆ちゃんの顔を覗き込む

・  ・  ・  ・  ・

 

 

慌てて、ブザーをビーッと押す。
肩を叩いて
「婆ちゃん?  婆ちゃん?」

 

 

 

パタパタっと看護士さんの足音が聞こえてきました。
再び ハ〜〜〜 っと息が戻りました。

 

 

” 婆ちゃん、息の止まっていた時間がちょっと長かったよ〜。”
婆ちゃんは最後まで驚かしてくれる。

 

 

夕方になって義姉たちもやってきました。
みんなは婆ちゃんを囲んで、ただじっと見守っています。

 

 

それからまもなくしてからです。
「もう、息していんでない?」と誰かが小さな声で言いました。
私は、みんなの後ろにいたので、婆ちゃんの呼吸がいつ止まったのかはわかりません。
そばにある心電図にはなお、規則正しい波形が続いていたからです。
きっと、婆ちゃんの胸のペースメーカーが、止まった心臓を動かそうと、信号を送り続けていたのでしょう。

 

 

葬儀には、婆ちゃんの故郷、岩手からも沢山の親戚が集まって下さったから、婆ちゃんも喜んでいるべね。
ところが、一昨日から、札幌は29年ぶりの大雪にみまわれ大混乱。
婆ちゃんのお骨は、繰り上げ法要を終えてから、斎場で少しのあいだ待っててもらい、家族の男子が家の雪を掘り出してから、到着してもらうという事態になりました。

 

 

おばちゃんが、
「姉さん(婆ちゃん)はさあ、まー ごうじょっぱりだべさ。死ぬ前に、ぽぷらちゃんに『ありがとう』って言ってたんだべか?」
と聞いてきました。
私は「いやいや。 婆ちゃんはね、病院にいた時も、『ありがとう』なんて言わなかったよ」

 

 

そう言うと、おばちゃんは、プっと少し笑って、
「そうかい、ほんとにまあ姉さんだったら、どこまで ごうじょっぱりなんだべね」と、少し、あきれかげんです。
「でもね、1週間ほどまえに、ちゃんと聞き取れる声で『母さん、苦労かけたなあ』って言って手を伸ばしてきて握ったよ」

 

 

「あらま、姉さんがそんなこと言ったのかい!」
「ん、そうなの。ね、お父さん(旦那さん)」
旦那さんがウンウンとうなずきました。

「そうかい、そんなこと言ったのかい」
おばちゃんは、またポロっと出てきた涙をハンカチでぬぐいました。

 

・・・・・・・・・・・・・・

2010年4月から続いた婆ちゃんのカテゴリー
は、今となっては楽しい思い出になりました。
優しい多くのコメントも頂き、ありがとうございました。

 

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10 Comments

  1. くにまる

    このたびは、たいへん御愁傷様でした。

    私も昨年、実母を亡くしました。遠距離なので、両親とも最期を看とることが、できませんでした。
    しばらく、心の整理がつかないと、おもいますが、元気を出してください。お婆さんも、きっとそう願ってますよ。

    Reply
    1. ぽぷら (Post author)

      くにまるさんへ

      お心使い、ありがとうございます。
      くにまるさんも、お母様を亡くされたばかりなのですね。
      婆ちゃんが亡くなってから、あっというまの初七日で、なにがなんだかわからずじまいでした。
      これからは少しずつ、色々なことを考える余裕もできそうです。
      実感もじわじわと感じてくるかもしれないですね。

      Reply
  2. テト母

    ご家族の皆様に看取られて
    おばあさまは幸せに旅立っていかれたことでしょう。
    お気持ちの整理もなかなか大変な事、
    お淋しい事と思います。
    どうぞお身体お大事になさってくださいね。

    Reply
    1. ぽぷら (Post author)

      テト母さんへ

      お心使いありがとうございます。
      最後は眠るようでしたので、よかったと思っています。
      お通夜、告別式など、当初はどんなに疲れるだろうと覚悟していましたら、なんとか乗り切ることができてほっとしています。
      それが、今頃になってジワジワとやってきたのか、主人も私も、ぼーっとしちゃっています。
      こういう疲れって、あとからくるのですね。
      これからのことは、ボチボチと、焦らずにやっていきたいと思います。

      Reply
  3. t22t

    寂しくなられましたですね

    しばしのお休み、旅に出ておらるのだろうと思ってました 今回はPC留守番にしておられるのかなとも

    不見識なこと言ってすみません
    皆で見送ること出来て良かったですね

    我が実母、104歳です 兄が老老介護してます
    我が義母、99歳です 我が伴侶が老老介護してます
    ぼつぼつ旅立ってもよいと思ってます それが子孝行とも思うこのごろですね

    Reply
    1. ぽぷら (Post author)

      t22tさんへ

      とんでもございません。
      お心使いありがとうございます。
      ご高齢のお母様、義母様はもとより、介護される方のご苦労を、ほんの少し知ることができました。
      『子孝行』私も、よくわかります。

      Reply
  4. まこと

    いつも見にきてましたがしばらくぶりのコメントです 
    おばあさんが亡くなられてそうで 慎んでおくやみ申し上げます
    もちつきでのばあさん つけもの漬けていたおばあさん
    さまざまなおばあさの暮らし振りが思い出されます
    ポプラさんも旦那さんも ご苦労様でした

    Reply
    1. ぽぷら (Post author)

      まことさんへ

      おひさしぶりです。
      お心使いありがとうございます。
      私も、婆ちゃんの姿で思い出されるのは、漬け物をつけたり、畑にいる婆ちゃんです。嫁と姑ですから、人並みに、色々なことがありましたが、今となっては、とてもよい思い出になりました。
      まことさんには、婆ちゃんの生前からブログをご覧頂きまして、ありがとうございました。

      Reply
  5. 修行僧

    只々、合掌。

    Reply
  6. ぽぷら (Post author)

    修行僧さんへ

    お心使いありがとございます。
    初七日を無事終え、婆ちゃんも、ほっと一安心しているかなと思っています。

    Reply

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