北海道・札幌発・だべさ通信5

怪しいかけ声

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「父さん、いるかあ」
婆ちゃんが事務所に入ってきました。
「今ね、仕事に行っているけど、もうじき戻ると思うよ」

 

 

「そっか・・」
婆ちゃんは事務所の椅子にどっかと座りました
「はい、お茶どうぞ」
「はいはい、どうもどうも」
麦茶をちょびっと飲んでから、「父さんと肥料買いに行ってくっからな(行ってくるからね)。それにしても、今年はキューリもトマトも、なり悪いもなあ。な〜してなんだべなあ・・・」ゴクゴクッゴク・・

 

 

まもなく事務所の前に車の止まる音がしました。
「父さんだべ!」
ところが、事務所の玄関にやってきたのは、馴染みの看板屋さんでした。
「こんにちは〜」
「はい、ご苦労様・・」
私が玄関先で看板屋さんとアレコレ話をしているあいだ、右方向の視野に見える婆ちゃんが、慌てて椅子から立ち上がるのが見えています。
看板屋さんが事務所の中に入ってくると思って、慌てたんだね。

 

 

「あの、お願いしてあったものを取りにきました」
「はい、主人から伺っておりますよ。これですね」
すると、あちらの方から、小さな・・けど、大きく聞こえる声がしてきました。
ヨイショッ ヨイショッ・・・・

 

 

「そうです。これこれ」
「これで、全部ですね」
ヨイショッ ヨイショッ・・・・婆ちゃんは、あわてて裏口から出ようしているもんだから、椅子から立つのも歩くのにも、ついかけ声が出ちゃうんだね。しかも、婆ちゃんは耳の遠いから、これでも自分では小声のつもりなんです。

 

 

「確かにこれです。有り難うございました」ヨイショッ ヨイショッ・・・・
「はいどうも、ご苦労様でいた」ヨイショッ ヨイショッ・・・・
その時電気がバチッと消えました。婆ちゃんが部屋を出る時に、思わず事務所の電気をポチっとを消してしまったのでした。

 

 

「ん?・・・したら(そしたら)そういう事でよろしくお願いします」
「はいわかりました」
丸まった背中が裏口に向かって急ぎ足。
怪しいかけ声がしてきても、突然電気が消えてしまっても、ここの事務所はな〜んもさ。
「それじゃね、おば婆ちゃんによろしく」
「はいご苦労様でした」

「婆ちゃ〜ん、お客さん帰ったよお〜」

 

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